R18novel短編

事故物件へようこそ-1

「こちらになります。防火対策も優れていますが、何より防音。楽器などを弾かれる方には、お勧めできる物件です」
 そう言われて、由木(ゆぎ)は部屋中を眺めた。
 最近、東京に出てくることになり、友人の部屋を間借りしていたが、防音の関係でピアノの音を鳴らすことはできない。
 電子ピアノにヘッドホンをして練習をしていたが、雰囲気が出ないというわけで、やっと自分の部屋を持とうと思い、不動産屋にきた。
 まず、防音が重要で、そこを探したが、なかなか家賃が高くなる。最低が管理費込みで八万。間取りが1K。何処で手を打つか考えながら、不動産屋と相談した。
 とりあえず最寄り駅の十分以内という近くの条件が宛て填まるモノを三つほど選んで見せて貰っている。
 既に三つ見てきた後で、これは不動産屋が訳ありだと言って見せてくれた四つ目だった。
「ここは見晴らしもいいんですが、隣で殺人事件があって、人が亡くなっているからなのか、人が住みたがらなくて、なかなか借りる人がいないので、お値段も下がってまして」
「幾らなんですか?」
 部屋の広さは同じである。1Kであるが、風呂とトイレが別になっている。他の部屋は、洗面台とトイレが一緒で、慣れないと厳しいと思っていたところだった。
「本来なら十二万なのですが、他三件と同じで八万と言いたいところですが、今なら七万ってことで、大家さんとは話がついているんですよ」
「え、十二万が七万?」
「はい、とにかく埋めたいらしくて」
「ちなみにその殺人現場になった部屋は?」
「そこは、もう既に人が入ってまして……」
「七万より安いんだ?」
「ええ……五万で」
「いいなぁ。俺、そっちでも良かった」
 由木がそう言うと、不動産屋の案内人の田室(たむろ)が驚いた顔をした。
「お客さんは、そういうの気にしない人で?」
「うーん、背に腹は替えられないっていうね」
「まあ、部屋が悪いわけじゃないので、その気持ちは分かりますが、残念ながら、他の事故物件は楽器防音物件ではないので……」
「そっか。まあ、この部屋が一番いいかな」
「あ、そうですか! じゃあ、防音などの確認の為に一泊してみますか?」
 田室(たむろ)がそう言い出した。
「こういう物件で、後で防音じゃないなんて揉める事がありまして、数時間では分からないことも泊まってみれば分かるかというので、うちでは一泊コースを用意してます。もちろん、三千円ほどかかりますけど、寝袋などはこちらで用意致しますが?」
「んー、そうだな。試してみようかな? 心はここに決まりかけてるし」
「そうですか。じゃ、さっそく用意させて貰いますので、お客さんは一時間ほど近所の散歩でもしてみてください。コンビニもすぐそこにありますし、その奥には公園もあります。スーパーはちょっと奥になりますが、十分ほどそっちに歩いて貰えば、フードコーナーなどがありますよ。準備ができましたら、お電話させていただきますので……電話番号はこの記載されたモノでよろしいですか?」
 田室(たむろ)はそう一気に言うと、嬉々として準備をしている。
とにかく、殺人事件の部屋ではないが、誰かが住んでくれるなら、何でもいいのだろう。
 マンションの前で田室(たむろ)と別れ、由木はスーパーまで歩いて行って遅い昼食を取り、散歩をしながらマンションまで戻ってきた。なかなか、周りの景観も良かったので、更に心が傾いている物件である。
 最寄り駅まで五分。コンビニは目の前、スーパーは十分以内。大通りに面しているが、目の前には建物がなく、川が見える。景観は最高である。条件以上のものが揃っているので、事故物件の隣ということさえ気にしない人であれば、すぐさま埋まるような物件のはずだ。
 そこで由木はふとおかしいなと思う。
 他に何か問題があるのか。泊まってみて辞める人が多いのかもしれない。
「あ、由木さん、お帰りなさい。さっそく準備をしましたので、説明させていただきます」
 田室(たむろ)とマンション前で合流すると、時間は午後三時を回っていた。
「両隣がバンドをやっている方なので、ギターとベースだったかな。深夜に近い時間に練習されているそうです」
 とりあえず、トイレは使える。水も構わない。明かりも付くようにしてくれているが、ガスがない。なので、夕食はコンビニで買うしかない。トイレットペーパーは田室(たむろ)が一個持ってきてくれた。部屋の中央に小さなテーブルが置いてあり、その隣に寝袋がある。
「それでは、一応先に代金の三千円をお願いします」
「はい」
 田室(たむろ)に代金を払って、室内の説明を受ける。
 風呂が使えないこと、もしうるさくても隣などに苦情は言わないこと。様々な細かなことを決めて、田室(たむろ)は一時間ほど説明をしてから、明日の十時にまた来ると言って帰って行った。
 由木はとりあえず、部屋の中を隅々まで見て回った。イメージでここに何かを置いて、こっちはこうでと考えていると日が暮れた。
 六時半にコンビニに買い出しに行き、食べながらワンセグでテレビを見る。幸い、コンビニのWi-Fiが届いていて、ネットの動画などを見ながら過ごした。
 十時くらいにはすることがなくなり、電気を消して寝袋に入って寝た。寝袋で寝るのは初めてであったが、そこまで悪くはなかった。
 由木は疲れていたのもあり、あっという間に寝てしまった。

 
「はぁ……っ、ぅ、ん……ふ……はぁっ……ぁ、あん……ぁ、やぁ……っ、あぁんっ……」
 寝ているのに息苦しい。
 夢なのに、全力で走っているように疲れている。
 何なんだ、この夢は、そう由木は思った。
 ハッとしてやっと目を開けた時に、由木は床に躰が押しつけられていることに気付いた。
「……なっん……だ? はひ……ひ、……ぁ……ん……え……っ?」
 五月蠅い息は自分が吐いているもので、声を出しているのも自分だった。
 由木は状況が飲み込めなくて、周りを見回すのだが、やっと自分が誰かに襲われていることに気付いた。
「ぅあっ……ぁ、や、嫌……っ、イタっ……あ、ゃん、やぁ……っ! だれっぁん、ぁ、やめっん、なにっんぅ……っ」
 あり得ない場所に圧迫を感じる。それがアナルであることに気付いたのは、踏ん張れないことからだった。
「ぅあぁっ! ぁひっ、ひぃん……っ! 嫌、嫌ぁあ!」
 アナルセックスをしていると分かって、由木は逃げようとするのだが、腕が誰かに押さえつけられて頭の上で纏められていることに気付いた。
 振りほどこうとしても、それは圧倒的な力でピクリとも動かない。
 しかし、頭上を見てもそこには闇の空間があるだけで、人の気配はするが、姿が見えない。
「あぁ……っ、ぃ、嫌っ……はぁっ……もぉ、やめて下さい……ぁ、はぁっ……こ、こんな……っ、だめ、です……」
 抵抗しているのに、甘い声しか口から出てこない。これでは嫌がっている訳じゃないように聞こえる。
 ジュクジュクと後ろから聞こえる音は、アナルに入った誰かのペニスだ。グンと大きくなり、圧迫感が増す。由木が起きたことに気付いて、興奮を覚えたらしい。
「ぁ、……っぁん、やぁ……っ、やめて……やめて下さいぃ……っ、ゃ、あ、ぁ、あっ」
 くちゅっ、くちゅっ、ちゅぷっ、ぷちゅっと音が響いていて、それが規則正しく聞こえてくる。しかし、相手が誰か分からない。
 しかも躰が動かない。金縛りに遭ったかのように、一切の身動きが取れないのだ。それでも躰が揺すられていて、口は自由になる。
「あぁっ、あ、ひ、ひぃっ……! ぁ、あんっあんっ!」