Liar

 バイトを首になった。
 江上はそれを言い渡されたとたん、店から追い出されるようにして、それまでの給料を手渡しされて二度と店の敷居を跨ぐなと店主に言われた。
 はっきり言って理不尽である。
 店主が行っていたセクシャルハラスメントの被害者女性を助けただけだ。相談を受けて真面目に助けたら、自分だけが解雇された。被害者の女性はそんな江上を見て見ぬ振りして仕事を続けている。
 やっとそこで江上は理解した。
 この女性、被害者ではなく、ただの自慢だったのだ。セクハラをされるほど店主に好かれている自分。それを江上に言うことで江上にも魅力的な女性に見られたかったようだ。
 これにさえ口出ししなければ、ライブハウスの裏方であったがそれなりに楽しかった。先の見える世界だったし、こういう仕事に就きたいとも思っていた。
 それをあの女に騙されて、上手く使われたのだ。
 気付いた時には、もうどこのライブハウスも江上のことが噂になっていて、むしろ江上が女性にセクハラをしていたことにされていた。
 女性はそれを否定せず、相変わらずモテる私を演じている。
「くそっ……何でだよ」
 裏切られて将来進みたい道も潰された。それが悔しくて引きこもっていると、大学の先輩が心配そうに尋ねてきた。
「大丈夫か? お前のこと大学でも噂になっていたからさ。でもどっちかっていうと江上は助ける方だよなって思って調べてみたら、セクハラをされた女の言うことが支離滅裂で、そもそも店主にセクハラされていたことも嘘だったらしいぞ」
 どうやら話は大きくなっていたが、江上の日頃の行いの良さから目撃証言と女性の嘘が多数も発覚し、江上の行動の正しさが認められたらしい。
 先輩である西平は、それを調べてくれてさらには江上はそういうやつじゃないと江上から聞いた女性の発言をまとめて店に問い正しにいった。すると他の男性従業員が同じことを女性から言われて食事に誘われたが、面倒ごとがイヤで逃げたと言い出した。すると他の男性従業員が次々に同じ証言をして、女性従業員からもこの女性に虚言があることが証言された。
 江上が店主にそうした行動をしたのは、騙された結果だったのだと伝わると、店主は女性を解雇した。しかし江上が店主を信じてくれなかったことに店主は少し私情が入るが、復帰はお互いに気まずいだろうとなしになった。
 人間不信に陥りそうなほどの結果で江上は更に落ち込んだ。
 自分に人を見る目が何一つないことが証明されてしまったのだ。
 簡単に騙されて、あんないい店主を疑い、公の場で糾弾する行動を取った。
「先輩ありがとう。でも今度は恥ずかしくて外を歩けないよ……」 
 江上がそう言って落ち込むと、西平は思い出したように言った。
「うん、まあ。都会ってのは人がそういう感じで色んなやつがいるところだしね。それでね、都会はウンザリな江上にバイトの話があるんだけど」
 西平がそう言うので江上はキョトンとする。
「実はうちの実家、ちょっと変わった神社なんだ。昔に大暴れした鬼を退治して、その鬼が暴れないように神社に祭って鎮魂してる神社でさ。そこで毎年一週間、鬼の鎮魂祭りってのをやるわけ。神社の参道あたりに店を出したり、花火を上げたりするんだけど。その祭りの一週間の行程をやる宮司の手伝いを毎年俺がやってたんだけど、今年はどうしても就活で無理なんだ。それで代わりの誰かを寄越すならバイト代奮発するから、誰か呼んでくれって言われて、それで江上のこと思い出していろいろあったから、その辺考慮して貰って話したら、田舎だからちょうどいい避暑にもなるし、一週間といわず、夏休み中手伝ってくれないかって親が乗り気で言い出したんだ」
 西平がそう言ってきたのだが、それに江上は呆れた顔をして返した。
「それ、もう決定事項じゃないですか……」
「いいだろ? お前、実家は近いし帰らないだろうし。夏休みを田舎で暮らしてみれば、何か心の変化もあるだろうし、気分も変わるだろうし、夏休みなんて一ヶ月半もあるしさ」
「……まあ、気分転換に知らない土地に行くのもありですけど……でも先輩の家にお邪魔したら、そのいろいろ気を遣って気まずいんだけど……」
「ああ、大丈夫。その辺はアパートが近くにあって、そこの管理人がうちの親で、そこを手伝ってくれる間は貸してくれるから、一人暮らしであることは間違いないよ。それに田舎だけど、近くに幹線道路ができて、そこにコンビニとか商業施設ができて、便利になったからベッドタウンみたいな扱いになってきて、地元も田舎田舎したところと幹線道路沿いの華やかなところができて、俺も将来戻ってもいいかな~的なことは考えているんだ」
「ああ、先輩今のところ就活全滅中でしたよね……」
「……言うな。大卒なら田舎の方が待遇が良いんだぞ。でもあと二、三受けてみないことには……」
「都会に未練ありまくりですね」
「ははは、まあ、俺のことはいいとして、お前は行くよな?」
 有無を言わせないような言い方に、江上は苦笑しながら受け入れた。
「先輩のお陰で誤解は解けたし、俺の名誉も一応自業自得ですから、受けますよ」
 そう江上が言うと西平はホッとしたように笑った後、すぐに父親に電話を入れていた。 そのまま電話で西平の父親と打ち合わせをして、すぐに江上は荷物をまとめて一ヶ月半近く住む予定の田舎へと旅だった。


 駅まで西平が送ってくれて、お土産まで持たされ、途中で食べるようにとお弁当まで買ってくれた。
 至れり尽くせりで送り出され、電車で県を二つ跨いで辿り着いた。そこから西平の親戚の人がバンで迎えに来てくれ、荷物も全部載せて出発した。
「いやー、若い人が手伝いにきてくれて、本当に助かった」
「はあ……」
「年寄りが多い地域でね、地元も賑やかになってはきたんだけど、大学とか行くとなると一旦村をでなきゃいけないのは変わりなくてね。そのまま戻ってこない子も多いんだ。やっと最近、えーっとUターンっていうの? それで結婚してから戻ってくることが増えてきて、これからって時に宮司の右腕になる予定の子が入院しちゃってね。西平の息子は就活だから戻ってこられないことは去年から分かってたから、急にそういうわけにもいかなくなってね。君が来てくれて本当に助かったよ」
 西平の親戚の人は、本当に助かったと喜んでいる。
 もしかしなくても、この行事、軽いものではないのではないだろうか。
 そう江上は思い始めた。
 その予感はすぐに当たった。
 借りた部屋に荷物を置いて、神社に呼ばれて行くと祭りの一週間の間、社に籠もっていなければならないのだという。
「実はね……」
 宮司である西平の父親が説明を始めた。
 この神社の神様には婚姻の儀式というのがある。
 始まった当初はどういう意味かあったらしいのだが、今ではただの儀式としてやっているにすぎないのだが、その中で絶対に破ってはいけないルールがあるのだという。
 ここの神は鬼なのだ。なので万が一にも子供が生まれてしまった場合の危険があるとして、婚姻相手を女性に見立てた男性、しかも未成年にさせるのだという。見分けが付かないだろうし、セックスもできないこともない。それに今までそうしてきて問題は何も起こっていないというのだ。
「……その、儀式の内容って……」
「何、その儀式の間だけ、社の中で暮らして貰うだけなんだ。中には台所もあるし、自炊に必要な物はその都度言ってくれれば、社に運ぶ。ただ君は夜は絶対に社から出てはいけないという約束ごとを守ってくれなければならない。いや、もう君に断る権利すらないのかもしれない」
 そう宮司が言う。
「君は選ばれてきた。ここに来るまでに理不尽なことがあっただろう? それは全て、ここへ来るために用意されたことだったんだと思う。今までは村の者でどうにか回っていたのに、今年に限って外の者になった。それは神が望んで呼び寄せたと私は思っている。だから、君がいいか悪いかという気持ちは必要はない。ただ理解して協力してくれれば、それなりの待遇は用意するという話なんだ。辞めると言うなら、こちらもそれなりの手を使うしかないわけなんだが……」
 そう宮司が言い切った。
 これは西平先輩に騙されたなと、瞬時に江上は思った。
 最初から西平はこの役を自分がしなければならない状況になりかけたので、困っている江上を助ければ逆らえないだろうと思って助けたのだ。その方が西平にとっても都合が良かったのだろう。
 断って逃げ帰るのが一番面倒がなかったのだが、宮司の言葉に襖の向こうに誰かがいる気配がして仕方なかった。
 ゾクリとする感覚があり、それが何か分からないが、江上に絡みつくようにして見ていた。
「……」
 何か言わなきゃいけないが、口が開かない。
 断って逃げたいのに、身体が言うことを効かない。
 金縛りにあったように動けないでいると、宮司が呟いた。
「……君はよほど気に入られたらしい。もう村から出ることはできないだろう。可哀想に、でも仕方ない。君は選ばれたんだから、神に」
 宮司がそう言って手を鳴らすと、その金縛りが一気に解けるように江上の身体が動いた。それと同時に襖が開き、村の屈強な男たちが十人ほど出てきて江上の荷物や私物を取り上げ、まだ呆けている江上を担ぎ上げて社の奥へと運んでいった。
「あの……え、ちょっと」
 驚いている間に着ていた服を脱がされ、社の更に奥にある小さな洞窟の滝つぼに連れて行かれた。
「水に入って清めて、ああ、普通に浸かるだけでもいいから」
 どうやら俗世の汚れを落とせと言われたらしい。
 江上は逃げようにも服も携帯も財布も全て取り上げられているため、村から出ることもできないから諦めて水に入った。
 逃げるにしても着る物と財布は確保したいところだ。あとは信頼できる人か観光客かを捕まえて村の外へ出るしかない。
 江上は頭の中でいろいろと考えながらも水に入った。
 ひんやりとした水だったのだが、何故か心地よかった。
 江上は東京出身で、川で泳いだ記憶が無い。海だって家族に連れて行ってもらった湘南くらいだ。こんな綺麗で澄んだ水の中で行水をしたこともなかったので、せっかくの機会だからという気分が沸いてきた。
 心に余裕ができたのかそう思って腰まで浸かっていると、何かが足に絡みつけてきた。
「……う、ひっへっ蛇っ!!」
 その蛇は姿は見えなかったが、一気に江上の足に絡みつき、片足を締め付けるようにして這い上がってきて、細い何かが江上のアナルにゆっくりと入ってきた。
「う……あっああっなにこれ……やだ、お尻……あ……やめっ」
 痛みは一切なかった。ただ何かが這い回るようにアナルを押し広げながら這い上がってきて、糸のような細さの何かがどんどんと大きさを増してきていた。
「や……た、助けてっ……やだっなにこれ……ああんっ!」
 アナルの中に入っていた細い物が太くなり、それが江上の前立腺を擦りあげた。
 腰が跳ね上がると、それを押さえつけるように別の蛇がもう片方の足から這い上がってきて、体中に巻き付きながら江上の身体を浮かせた。
「ひっあっあっああっあっあぁあんっ!」
 さっきまで地面に付いていた足が浮き上がり、股を広げるようにされる。その間も体中を這い回る蛇のような物はヌメヌメと蠢き、江上の乳首にも細い蛇が絡まりついたように乳首を勃起させてくる。
「ああぁんっ、そんなっ捏ねたらっ……乳首ひぁっらめっだめっ、あ゛っひぁああっ」
 乳首なんて普段感じないし、自分でしたこともなかったのに、ただ蛇の胴体で擦られるだけで、どうしようもなく乳首が感じた。ピンと勃起した乳首が何かに捏ねられているかのように、クニクニと押しつぶされながら動き、乳首が誰かに引っ張られるかのように伸びている。
 その乳首の周りの乳房をもみ上げるようにして蛇のようなものがうごめていて、体中を愛撫をしてくるのだ。
「あ゛ひぃっ、らめっらめっ、お尻っ……あひっあ゛っ中はっだめっ……あ゛っあんあんあんあんっ!」
 アナルの中で縦横無尽に暴れる蛇の頭は奥まで入り込み何かを吐き出しては更に奥まで入り込んでいる。
 その何かは痛み止めか、催淫のクスリなのか、むしろ両方と言っていいようなもので、苦痛のはずのその行為が江上には気持ちいいものにしか感じなかった。
「あ゛ああっだめっ、やっん怖いっ……あひっ、い゛っあ゛っああっ」
 江上は体中を蛇に愛撫され、アナルを犯され乳首を勃起させて、自らのペニスまで勃起して、擦られてもいないのに精液をまき散らしながら達した。
「ひっあ゛っあ゛っああああっ……!」
 脳天を突き抜けるような快楽が一気に襲ってきて、江上はこの世で味わうことができないであろう絶頂の中、声を聞いた。
『我が妻よ……もっと啼け。お前の嬌声が心地良い』
 そう声が言うと、江上は更に蛇のようなものに犯され続けた。
「お゛っあ゛っうあっあ゛ーっだめっ、あ゛っんっひああっ」
 アナルの中からは液体がどんどん吐き出され、ペニスからは常に射精させられて精液が吐き出さた。
「あ゛ーっ……んっあっい゛っ……あっうぁっあんっあんっあんっあんっ」
 乳首はとうとうどういうわけか、母乳のような白い液体が出るようになり、捏ねられるたびに吹き出すようにして白い液体を吹き出した。
「あ゛あぁあっいくっいくっい゛っ……!あ゛っお゛っんぉっ……あ゛ああっ」
 完全にアナルで感じて射精を強いられ、江上は狂ったように絶頂をして射精をした。 普通なら死んでもおかしくはないほどの絶頂をしたし、射精をもした。
 けれど身体は元気なもので、ただ疲労を感じる程度で江上は与えられる快楽に素直に身体を開き続けた。
「あああっ……ひっあっそこっぐりぐりだめぇっ……あ゛ッうあっあっあ゛ーっ……」
 奥まで入り込んだ蛇の頭が内壁を押し開いて絶対に人では犯せない部分まで犯してくる。
「あ゛ああああっ…!だめっいくっいくっやっいっちゃうっ…!お゛っんあっあ゛っお゛っあっああっ」
 これ以上は無理だと思うほどの絶頂感の中、江上は達した。
 すると江上はそれ以上何もできず、気絶寸前の状態でぐったりとした。
 蛇は名残惜しそうに江上の身体を撫でてから離れていく。
 するとまた声がした。
『我が妻に相応しい……その身体、全て私に与えよ。さすれば、先の快楽、永遠となろう』
 そう声が言った。
 あんな恐ろしいほどの快楽。きっと二度とこの世で味わうことはできないだろう。江上は瞬時に察した。
 ああ、イヤだなそれはとふと思ったが、声は出なかった。
 最後にキスをするかのように唇に蛇の完食が触れて一気に気配が消えた。



 神が儀式の前に借り妻に手を出した。
 これは前代未聞の出来事だったらしい。
 江上は疲れ切った身体で水に戻されたところ、それを全て見ていた男たちによって水から助け出された。
 こんなことが起こったことは今まで一度も聞いたことがないと誰もが口にし、宮司まで飛んできた。
「神がこの子を気に入っているのか分かっていたが、唾を付けに来たのか初めてだぞ」
 そうすると周りの男たちが困惑する。
「それって……いつのものやらないってことですか?」
 男の一人がそう言い出し、周りから睨まれてしまい慌てて口を閉じた。
「……こうなった以上、儀式は普通にやる。分かるな、皆。もう遊びじゃないんだ。神は来た。そして我々に忠告した。……この子に手を出すなと」
 その神は人の目には見えない。それでも江上がされていたことは明らかにそれとしか思えないほどの光景だった。
 江上は水面に浮いたままで神に犯された。
 蛇は神の召使いのことが多い。それが来て手を付けていった。
 あっという間のできごとでもないはずだったが、誰もそれを止めることはできなかった。何より誰も身体が動かなかったのだ。江上が得体の知れないものに襲われているのに、助けるどころか瞬きと呼吸しか許されなかったのだ。
 あれが神がいる領域だったのだ。
 生まれて初めての経験に誰もが戸惑っていた。
 しかし江上だけは違った。
 ここで江上は気付いたのだ。
 もしかしなくても、村を出る方が危ないのではないかという事実にだ。
 ここにいる人、宮司以外は神の存在を信じてなかったようなのだ。しかし江上に起こったことは確実にその神らしきものの存在を表していて、それが問題なのだ。
 元々その神と婚姻関係を結ぶという名目の元、江上はやってきたというのに、その神が実際に出てきたらこの男たちの動揺の仕方からして、江上自体の存在は確かに神との婚姻という役割があったのだろうが、この男たちにとっては別の意味もあったようなのだ。
(ああ、そうか。神に与えるとか言って、昏迷させて皆で回してたんだ)
 そりゃ男でなければならない理由もそこにある。
 女では子ができたら、他の村の者に儀式を使った怪しげな行動だと気付かれるし、周りの村に知れ渡れば、嫁の来てがなくなる。ただでさえ限界集落なのだ。それだけは避けて、男で回した。それは旅人だったり、了承した家の者だったりしたのだろう。
 西平はそれが分かっていたので家に戻らなかったし、怪我をした江上の前の役割の子は、役割の意味を知って自殺しかけたのかもしれない。
 だって、寝ているくらいで済むなら怪我をしていても、そこで寝てばいいだけなので、役割自体は果たせるはずなのだ。
 江上が呼ばれたように、誰でもいいなら替えが利かない状態に陥ることもないはずである。
 口封じできる人間であり、後で面倒ごとにはならないようにする理由なんて、村中で回す以外に何があるというのか。
 ぐったりしたままであったが、江上の頭の上で揉めていた男たちが一斉に部屋を出て行った。宮司が村の皆に知らせて対策を練ると言っているのが聞こえた。
 誰もいなくなったところで、江上は目を開けた。
 真っ暗の中であるが、外が煌々と明るい。祭りの期間なので飾りの雪洞(ぼんぼり)に火が入っているのだ。今はその火は電気であるが、それでも村中がこの祭りを大事にしていることだけは分かる。
 もし神様を信じてないならここまで社は残ってなかっただろうし、村の祭りすら縮小して一日くらいで終わるようなものになっているはずだった。
 それが未だにこういう風に続くということは、時折神が本当に来ていたことを意味する。
 宮司はそこまで驚いてなかったし、気に入られたなと江上に言ったほどだ。だから
神の存在は知っているのだろう。
 江上はふっと息を吐いた。
「どうせ、いるんでしょ? 神とやら」
 江上が話しかけると、すぐに声がした。
『どうした、我が妻よ』
 さっき聞いた声が耳元で聞こえた。
 それは低く呻いているような声なのだが、江上には優しく囁いているように聞こえた。
「祭りって、何かやらないといけない?」
『元々は我と人との約束事が始まりだ。我に妻を寄越すことで村の安泰は守られてきた。が、先の妻がこの間死んだ。人として村で生きていたのだが、人の寿命は限られている』
 そう言われてふと江上が気付く。
「もしかして、お嫁さんを貰ったらその人がなくなるまで、お嫁さんはいらない感じだった?」
『元よりそうしてきたが、人は欲が深い。我を利用し、我の存在すら軽視し始める。そのあたりからこの村は腐敗しきっていた。そろそろ最後の繁栄をして我も去ろうかと考え始めると、我に妻がやってくる。よくできている』
 どうやら神ですら運命は操れないらしい。
 この荒ぶる鬼が神となり、村の繁栄を願うのに一人では寂しいので妻が欲しかった。そう願ったところ、男の妻を宛がわれたが、それでも幸せだったので受け入れてきた。
 しかしその間に行われる祭りの意味が段々と変わってきて、人の愛想を尽かして去ろうとすると、ちゃんとした妻がまたやってきてしまうのだ。
 だからその妻が死ぬまでは村の繁栄を願ってきた。
 そして今年は、その妻役は気に入らなかったのだという。
『何故だか知らん。宛がわれる妻を嫌いになったことは一度としてなかったが、今回は違った。なので少々脅したところ怪我をさせてしまった。我のことも怖がって村に戻りたがらないらしい。ここで誰が来てもきっと同じだろうと思っていた。お前が村に入ってくるまでは――――――』
「……何で?」
『久々に光を見た。暗い中に真っ直ぐな光が見えた。こんなのは初めてだ。涙が出た。瞬時にお前は私の妻だと思った』
 眩しい者を見て、神であるはずの鬼が涙を流すほどの嬉しさを感じたのだという。
 つまりは一目惚れしたという話である。
「それで……どうする? このまま村を繁栄させてとかする? 俺はすぐにでも村から帰るけれど……」
『そうなるなら、我もお前と共に村を去るまで』
「え、それってずっと俺に付いてくると言ってる?」
『我の妻がいくところに我は行くだけだ。今までの妻はこの村に住んでいたから、我もここにいただけだが?』
 てっきり村を出てしまえば、儀式のうんちゃらをした後、神とのこともその場限りで終わることだと思っていたが、そうではないらしい。
『もうこの世に我の力の及ぶものはそれほどないようだ。人の世は変わって、儀式は飾りになり、祭りも遊びになる。信じたい者が信じて信じないものは信じない。そういう世界なのだろう、今は』
「達観してるなあ……さすが神様だ」
 鬼とはいえ、何百年も神をやってきただけのことはある。世を嘆くことはせず、それが自然と受け入れて、消える自分たちの意味もまたそれと受け入れる。
「やー、でも確か、神様って、凄く大きな鬼じゃなかったっけ? そういうの連れて歩くのはちょっと……」
『人サイズになれというなら、なれるが?』
「なれるんですかー……」
 断る理由の一つを潰された。
『こうやって……』
「うわっ」
 そう言われた瞬間に、急に人の気配がした。それも寝かされている布団の中からだ。
「き、来ちゃったの? マジで?」
「来いと言ったのはお前だろう?」
 慌てる江上の前に鬼の顔がある。ただし人の顔をしていた。それは海外の彫りの深い彫刻の綺麗な顔をした鬼で、神は濃い赤に近い髪色だった。
「……赤鬼? って肌が赤いんじゃないっけ?」
「それもできるが、それでは人の世では奇っ怪なるから駄目じゃないか?」
「え、じゃ何で、イケメンで来た! ズルイ!」
「顔は変えてない。元からこういう顔だ。変えたのは大きさと肌の色……あとはペニスの大きさだけだ」
「ひ、あっっちょっとそれでも大きくするのはズルイです!」
「小さくして数も減したんだ。ちなみに形は変えてない」
 そう言うと、神は江上を押さえつけて身体を開かせ、さっきまで蛇の形のした物が犯していたアナルにそのペニスを突き入れてきた。
「あぁあんっ! ひあっ、あっあっ」
 さっきまで散々気持ちよくさせて貰っていたせいで、さっきの感覚を思い出してしまう。
「さっきのとは形が違うだろう? どうだ?」
 内壁を擦りあげるようにして神のペニスが動く。そのペニスには細かな瘤が幾数にも付いていて、それがアナルの入り口を擦りながら入り込み、内壁や前立腺まで擦りあげていく。そのペニスは一瞬で快楽を導きだし、たった一擦りだけで、江上を絶頂まで高めてしまった。
「あ゛ちがうっひっ、おっ、そこっ、そこっだめなとこ、ごりごりされてぅっ…あ゛ーっ…あ゛ああーっ…」
 明らかに人のペニスとは違う形をした凶悪なペニスが深々と江上を犯す。
「お前の中は知り尽くしているからな。この大きさでこの長さでちょうどいいのだろう?」
「あ゛ひっ、お゛っらめっらめっイってるからあっあっおっうぉっあ゛んっあんっあああんっ」
 神に押さえつけられてアナルだけで達した江上であるが、これで終わるわけもなかった。
「祭りは本番だ。お前との交わりは一生続くが、祭りの間は昼夜問わず何処ででもお前を我が抱いていい時間だ。そこにお前の意志は関係ない。そうしないと始めた祭りが終わらず、村は崩壊する。そういう決まりだ」
 神の語りに江上は絶頂をしながらも言った。
「そ、そんなの、やめられないじゃん……ズルイ……ああんっ」
 村のことは知らないと言いたいが、この祭りの本当の意味を知らず暮らしている村人だっている。最近、戻ってきたり住んだりした人など、本当に祭りに関係なく、この村に住んでいる。
 その人たちまで殺すことになってしまう原因を背負うことは、さすがの江上でもできなかった。
「さすがに四千人の命を捨てることはできないか? なら、この一週間、我の妻としての勤めを果たせ」
「あひっ、あんっあんっあんっあぁんっ……あ゛ーっあっ、あああっ」
「気持ちがいいか? 自分で腰を振っているぞ?」
 ガンガンと突いてくる神に対して、一緒に江上は腰を振り始めていた。
 自然と動いてしまうのは、やはり気持ちが良いからだ。
「んっあ゛ぅっ……おち〇ぽっ気持ちいいっ、もっと中、突かれないとおかしくなっちゃうからぁっ……あっ……もっとちょうだいっ……お゛っ、うあぁっん!」
「……なかなか今回の妻はおねだり上手だ。ほら、大きくしてやろう、もっといけるだろう?」
 そういうと、神のペニスがグンと強さを増し少しだけ太くなる。
「あ゛ああっ……ひっ、お゛っ、らめっ……あ゛っうぁあっ、おおきすぎっ……あっああっ……あぁああっ……ふぁっあんっ、あ゛ーっ……うごいてぅ、中でっ、あ゛っああっ!!」
「上手に飲み込んでいるな。かなりの好き者だとは思ったが、淫乱だな。これなら淫紋を付けてやれば、もっと絶頂できるぞ。ほら……こうやって」
 そう言って神が江上の下腹部に手を当てると、そこに見たこともない円の形をした印が浮かんだ。
 その瞬間だった、江上は一瞬で絶頂をした。
「あ゛うっ、んっ、あっあっあーっあん゛ひぁあっはぁっ!」
 全身を痙攣させた絶頂は、もう何度も経験したが、これは今日一番と言って良い絶頂だった。
「可愛いやつよ……」
 痙攣している江上の身体を押さえつけて、神は満足している様子で言った。
「今までの妻は蛇の方で愛でてきたが、我自身を欲しがるのは、お前が初めてだ。どこもかしこも可愛いやつよ」
 そう言いながら人と同じ身体になっているがそれでも鬼の様相は隠しきれない身体で、神は江上を犯し続ける。
 ペニスを突き入れたままで江上の身体を起こし、膝に乗せて反る江上の身体を支えながら、江上の乳首を弄った。
「あ゛ああっ、ちくびっ……ああっだめ、乳首いじられたらっ、あ゛ーっ…いっちゃうからぁっ、あっうんっ」
 唇で吸いながら、二枚の舌で江上の乳首を転がしてくる。回転するかのように舌が動き、江上の乳首がすぐに勃起したように硬くなり、それを更に舌が転がしていく。
「うあんっ、んっんっ……あんっ、だめ、ほんとに、ちくびっ、だめっ、おっ、んぁっ、いいっいいっ……ふあっあ゛っああぁっ」
 深々とペニスをアナルに突き入れられたままで、乳首を二枚の舌で弄られまくり、乳首からは乳が出始める。
「ちくびっ……らめっ、あっああっあぁんっああぁーっ……あひっ、んっ、ああっ、だめっだめっ、乳首へんっ……こんなっ……ああぁあっっ……」
 普通ならここまでは出ないはずの母乳が溢れんばかりに出まくり、それを神が舌で舐め取っていく。最後にはかぶりつくようにして神が江上の乳首を吸い上げ、乳を何度も吸った。
「あぁあんっ……い゛ぃっ……きもちいっ、よすぎて変になるっ……あっあひっ、だめっあっあっおち〇ぽまで……だめっああん……っ!」
 乳首を吸われながら、アナルにはペニスが突き刺さったままで、江上のペニスまで蛇が巻き付いて扱いてくる。
 細い管のような蛇が尿道に入り込み、それがまた快感として江上を襲った。
「あっあぁんっ……ぐちゅぐちゅして……っ。おち〇ぽもっ尿道も……ちっ乳首も全部っ弄られていきたいっ……あっはああぁっんああっん……っ!」
 江上は身体を完全に神に預け、それでももっと強請った。
 神は床から起き上がり、江上を抱えたままで立ち、空中にできた蛇の台座に江上を凭れさせると、そこで蛇に塗れて上から江上の足を完全に開いた状態で押しつぶすようにして犯し始めた。
「あひっ……あ゛っあんっあんっあっあっあっあんっ」
「これでは足りぬとは、さすが我が妻よ」
 神のペニスが更に大きくなり、それが一旦江上のアナルから抜けると、パリッと割れるように二股に開きそれが双頭の蛇のように長く伸びた。
 その双頭の蛇のペニスは交互に江上のアナルを犯し始め、それから二本が揃ってアナルに入り込んだ。
「あ゛っ……ひっお゛っああぁっ…あっらめえぇっ……」
「ここからは一味違うぞ?」
 そう言うと、双頭のペニスが交互に動き始めるのだ。
「あっあ゛っあ゛あああっ! ひっあひっあへっお゛っそこっだめっ……いくっいぐっいぐっらめっあ゛ッあ゛あぁっ……!」
 縦横無尽に動き回る双頭のペニスが、江上の快楽を最上まで上げていく。絶頂に達しても精液が出てても、まだまだ神の行為は止まらず、構わず犯し続ける。
「あひっ……まって、あっあ゛っもっ、死んじゃうっ……ああっあっあっあっ……」
「死にはしない、我が付いている。もっと欲しがれ、我が妻よ」
 双頭のペニスが出ては入りを何度も繰り返しては一本になると奥まで入り込み中を犯し、二本になっては交互に奥まで犯してくる。
 やがて興奮した神は三本目のペニスが生えてくる。
 それが少し緩くなった江上のアナルに入り込んできて三本のペニスがリズム良く江上の中を犯し続ける。
「ひあっ……あ゛っお゛っああああっ……」
 さすがに三本目は辛かったのだが、それでも江上は受け入れた。絶対に入るわけないし、裂けると思えたのだが、どういうわけか、神が江上の身体に入れた淫紋を触り、少し弄ってその三本のペニスを受け入れを可能にさせた。
 淫紋によって淫乱にされた身体は、何でも受け入れることができるように身体が勝手に変化してしまう。
「あああっ……ひっあ゛っおっお゛おっ……あ゛ひっいっだめっあああっあっああぁっいくっ、出るっ、出ちゃうっやっあっあああーっ!!」
 ビシャッと精液を吐き出して達する江上であるが、神はまだ終わりはしない。
「あっあっあっあんっあんっあぁあっやっあああっあああぁっ……らめぇっ、乳っあんっ出てるっ、あっあひっあ゛あぁあっ!!」
 蛇の上で散々犯されても尚、江上は何度も犯される。
「はああっ、もっらめぇっ……ひあああっあっあああっ……あっんんっ」
 いつの間にか逃げるように出た外の廊下で人が見ている前で平然と神の三本のペニスに犯された。
「あああっ……ああんっ、んっ、あっ、ふぁっ、んんっあぅっ……」
 順番に神のペニスが江上を犯し、精液を吐き出しながらも、生硬くしながら何度も何度も江上の中に精液を吐き出すのだ。
「やっ……ああぁっあっひっあぁんっ」
 だが、周りはそれが目に入っていないようだった。
「そうだよ、見えてない。やつらはお前がまだあの社の部屋で寝ている姿しか見えない。何故って? それがこの祭りだからさ。他の奴らには我は見えない。せいぜい見えるのは蛇くらいだ。だからお前に我が触れている間はお前も我と同じなのだ。だから見えないし聞こえない」
 神に触っている間は江上もいないも同然なのだ。だから、神が言った昼夜問わず好きな場所でセックスができるというのは、こういう意味だったのだ。
「あっあっあんっあぁあっ」
 神はわざわざ人が多い場所を選んで江上とのセックスをした。
 どういった意図があるのが江上には計り知れないが、見えないならもう江上が気にすることはなかった。
「あああっ……もっやらぁっ……あっまたっ出ちゃうっ……あっあぁんっお乳がっ出るっあっあぁああーっ」
「お前は乳首が好きだな。孔を犯されながら、乳首を吸われるのがいいなど。淫乱で淫紋をくれてやったことが相応しいほどだ」
「ふっああんっ……きもちいっ……乳首コネコネっ気持ちいっ……あっんまたお乳出ちゃうから吸ってっ……ひああぁんっ」
 吹き出るように出る乳を何度も吸って貰い、アナルはしっかりと三本のペニスに犯されるのが江上のお気に入りになったほどだ。
 神は余裕たっぷりで江上の願いを何度も叶えてくれる。我が妻といい、可愛いと言って何度も快楽を与えてくれた。
「あああんっ、あっああっ、出るっ、そこ突いたらっ……出ちゃうっ……ひっああぁんっ」
 とうとう江上は小便を漏らしながら絶頂に達した。
「ひあああっ……やっあっ、あああっ……」
 そうした時には、神は江上に何度もキスをしてくれる。良くできたと褒めるように何度も体中を撫で回しながら、江上をその気にさせて、また強請らせるのだ。
「……もっとして……ちょうだいそのペニスを……」
 神とのセックスは麻薬と同じだ。更に淫紋を付けられたらどっぷりトリップしている状態になる。
 江上も自分が正気だとは一ミリも思ってなかった。神の魔法にかかった状態なのだと思っていた。
 実際そうであったし、神はそれを否定しない。
 それでも神が言うのだ、江上に向かって「我が妻よ」と。
 何人にも捧げたであろう言葉でありながらも、それを嬉しいと感じるのは、この生が終わるまで愛して貰える事実を知っているからだろうか。
 時々、休憩と称して食事をするために江上は解放される。そして睡眠を取るための時間も解放されるが、神の環視は他の物を社に寄せ付けはしなかった。
 元々江上を犯す目的で集まっている信者どもである。神が一番彼らを信用していない。
 江上はそんな神を信用して休息を取り、食事を食べた。もちろん中には食事に眠り薬を仕込まれもしたが、神がどうにかして見抜いてしまうのだ。
 その時は自然と食事がひっくり返るものだから、他の誰もが江上に近づくことができなくなってしまった。
 やがて祭りの本番になり、村中が盛り上がる中、皆が参拝する社の中では神と江上が盛っている。
 社は開放されており、中のご神体がお目見えしているので、人はそれに祈りを捧げているのだが、その目の前で見えないのをいいことにセックスに興じる神とその妻の姿は見えているものがいれば、滑稽であっただろう。
「ひあっあっあんっあんっらめっ……あっあっああっ」
「ほら、もっと腰を振れ。そうだ。皆に顔を見て貰え」
 そう言うと、参拝客がお参りしている賽銭箱の前で股を広げ、神のペニスが挿入されているところを若い娘などに見せつけるようにする神の行動は常軌を逸しているとは思う。
「中出しされているところも見て貰え」
「あひっらめっ、中出しはぁっ……あっあっあんっ」
 三本のペニスから順番に精液を吐き出されてイクのを見られ、神のペニスが出て行くと、大きく開いた江上のアナルから精液が溢れ出てくるのを神は村人に見せつけるのだ。
 まるでそれが神とセックスをしたという証を見せつけることも儀式の一つのような気が江上にはした。
「あひっあへっ、い゛っいくっあっああああぁーっ!」
 そして見られながら江上はまた達するのだ。
「まだ祭りは始まったばかりだ。群衆は花火など楽しむのだろうが我らはこのまま繋がり続ける」
「ああんっあっらめっ……ひあっあっあっあっ」
「駄目じゃないだろう。イヤらしく言うのはどういうのだった?」
「あぁんっ、おれ、神様のおち○ぽで、おま○こぐりぐりされたいっ乳首ももっと吸って噛んでっああっきもちいいことっもっとしてっあんっあんっいいっ」
 言われたことを全部される。それが人とは違う形で神にされる。それが過剰なほどの愛撫であることは江上も知っていた。
 だからこそ神の愛を受け入れないなんて選択はあり得なかった。
「あああんっ、きもちいいからぁっ……い゛いっあっああっ」
 自ら腰を振り、神のペニスを口にして吸い上げて、その精液を飲み込んでも何の違和感もなかった。
 ここに来るために味わった屈辱など、もう彼方に消えた。
「はぁあっあっ、なかに、精液中出しして……っあっあああんっ!」
 神は江上が望むように抱いてくれた。
 その日花火が何十発も上がり、祭りは大成功のうちに終わりを告げると、神もやっと江上との行為を終わらせにかかった。
「あ゛あああっいくっああっ、いっちゃうっあぁああんっ!」
「ほら、いけ。中に全部出してやるぞ。普通なら孕むほどだ……」
「はあっあぁっ……あっ、うぁ、あん……っああぁんっ! まって、ひっああぁんっあぁんっいくっいっ……ああっいいっ……あっあんっあんっいい!!」
 神との交わりの一週間が終わりを告げた。

 その後、どうなったかというと。
 神は村を出た。
 もちろん江上に付いてである。
 さすがにあの習慣を村に残したままでは、その後の被害者も出る可能性があるため、祭り自体は普通にやってもいいが、神のためという社隠りの儀式は、西平の父親の宮司の代で終わりということになった。
 神の怒りが伝わったらしく、村長たちにも神がいることが伝わったようで、儀式は消えた。
 しかし、神は久々に外の世界を見たくなり、旅に出ると言い出して村を出ることになった。
 村ができて四百年余り、村の外から来た妻に連れられて神は村を出た。
 もちろん、村人には内緒である。
 もはや神の力を借りなくても、村は存続の危機を脱しており、寧ろ荒神である鬼の神などいない方がいいのだと神が言う。
 神は村の代々の妻の墓に別れを告げた。
 どういうわけか、村人は神が選んだ妻だけの墓は妻用の墓に入れてくれていた。
 何となくではあるが分かっていた人が多かったのだろう。
 最後の妻役だった人は、九十七歳で亡くなっているが、アルツハイマーが出て三十年ほどは病院暮らしだったらしい。
 死ぬ時に社に尋ねてきてそこで死んだそうだ。
「あれも我を一人にしたくなくて、後悔して死んだ。気にせずともよいのだ。人と我が違うことなど、とうに知っている。我は一途だが惚れっぽい、案外上手くやれるもんだ。神様人生なんてな」
 神様がそう言うのだが、江上は苦笑するしかなかった。
 江上は神様を置いて逝くことはもう確定しているし、神様はそうして江上を見送っていく存在だ。
 江上は一人ではないと安心できるけれど、神様を縛ることはないだろうと思った。
「今生の俺を命一杯愛して、そして消えたら、また誰かを愛してあげて。きっとその人は俺のように寂しい人だから」
 江上がそう言うと、神様が笑う。
「どうして我が妻たちは同じことを言って求婚するのだ」
 そう言われて江上も笑ってしまう。
 いい神様が愛した我が妻たちが悪い人たちなわけない。
 絶対にいい人たちに決まっている。
 だって異端であることを選んで一緒にいることを選んだ人たちだ。
 江上と同じ気持ちだったに違いない。
「さーて、神様、どこにいこうか? 日本は狭いようで広いけど、今は世界にもいけるしね」
「そういえばそうだったな。まずはお前の家にいこう。話はそこからだ」
 神がそういい、未来の明るい世界に微笑む。
「あ、お前とか我が妻とか、外で言うのはなし。名前あるしちゃんと呼んで」
「なんと呼べば良い?」
「悟(さとる)」
「悟か。いい名前だ」
「でさ、神様はなんて呼ぼうか」
「一応、村で我の戸籍が存在していて、代々、区切りをつけて名を用意していたらしい。それをこれからは必要だろうと言われて、村長に貰ったのだが、ここに書いてある」
 用意周到な村人は、代々神様も生まれ変わっているという体で戸籍を用意し管理していた。それがそのまま明治時代に流用されて、居もしない神様の一族が存在する。
 その名前が書かれた日本の戸籍謄本がある。
 そこには――――――。